「五月 皐月のお献立 鮎の思い出 :福岡、西中洲の和食、日本料理 ゆるり」


若鮎もそろそろ終わりに近づいてきました。自分は天麩羅よりも塩焼派です。今回はどちらでもないですがいろんな意味で「良い料理」でした。

では献立を。

先附  小松菜の浸し 赤貝のとろろ掛け お多福

椀   温麺仕立 鱸と梅素麺 順菜 酢橘 夏蕪

造里  鱧の落とし 生湯葉添え  鯛と黄肌鮪

焼物  天然鰻白焼 獅子唐ちりめん

冷鉢  泉州水茄子焼浸し 蓮根 車海老 絹さや 姫おくら

止肴  赤牛照焼と焼蒸し鮑 芥子

おまけ 真名鰹南蛮漬

食事  若鮎ご飯 生ひじきの田舎汁 浅漬

甘味  茂木枇杷

先附は小松菜の浸しを作り、細切りにした赤貝をたっぷりまぜた大和芋のとろろを掛けます。彩りでお多福、針打ち茗荷などを添えて、軽く浸しの出汁を注ぎます。貝類ととろろは相性が良いので(鮑とろろとか有名ですね)、それ自体一品としても成立しますし、今回のようにちょっとした調味料、餡や少し手を加えてソースの変わりに使えるので重宝します。ご飯に掛けるというのもありです。

お椀は酒蒸しした鱸と梅素麺のさっぱりしたお椀です。最近はちょっと暑い感じのお天気だしたので温かい料理ではありますがさっぱりとくどくない仕立てにしています。秋田の順菜もつるっとしていてのどごしも良く、夏を感じる一品です。

造里は今回は別だしパターン。鱧と湯葉からスタートです。鱧は落とし、簡単に言えば湯引きですが、ゆるりでは鱧の出汁で落としを作ります。湯でもいいですがちょっと仕上がりが水っぽくなってしまう感じがするので鱧出汁で湯引きして冷ました鱧出汁に落とすようにしています。湯引きした鱧の上に生湯葉を乗せて山葵と割り醤油ですすめます。

鯛ですがこの時期は小ぶりな物をおすすめします。はっきり言えば日持ちはしません。刺身で召し上がっていただくならその日だけの美味しさとも言えます。脂はすっきりしていて身はシコシコした食感、天然ならではの白身の旨味、これらのバランスが大切なので食べ時が非常に短い食材です。お客様には「これ、本当に鯛ですか?初めて食べた、美味しい」と笑ってもらえたので鯛も本望でしょう。黄肌鮪は勿論「生」です。小さめの腹の身を今回は皮を取って刺身です。小ぶりな鮪は兎角「たたき」「焼霜」にしがちですが焼いた香ばしさが風味を損なう事もあります。今回は鮪の風味を活かしたい事と鯛とのバランスを考慮して普通に刺身にしています。

焼物は天然鰻です。型は大きくは無かったのですが無駄に肥えてて単純に美味そうだったので。あしらえはあえての獅子唐ちりめんです。さっぱりした酢の物というよりパンチのある物を添えると鰻の旨味がはっきりします。ポイントは獅子唐の辛味、苦味、ほのかな甘味です。

冷鉢は泉州水茄子がメインです。皮が薄いのでお漬物や芥子漬にされることが多いですが、今回は焼き茄子にしています。焼茄子のポイントは皮が焦げるまで焼く、以上です。色よりも風味重視です。焼いただけでは芯まで火が通りませんので直火で焼き皮を剥いでからオーブンで芯までひを入れた後浸しにします。その他の夏野菜と一緒に盛り込んで冷たいままいただいてもらいます。鰻がこってりなのでここはさっぱり、箸休め的な要素もあります。

止肴ですが赤牛の照焼、イメージは「ステーキ肉ですき焼き作りました」と思っていただければいいでしょう。両面に焼き目をつけて割り下を注ぐ、それだけです。火の入れ方はちょっとコツというか勘が要りますが説明の仕様がないので、すみません、割愛で。鮑は活物を塩で磨いて酒を振ってからアルミホイルで包んで炭火の中に突っ込む。シンプルにして最強の手法です。ピザ釜で鮑を焼く店もあるそうですが、「高温短時間加熱」を考えれば炭に突っ込む方が理には適っています。但し、当たり前ですがピザは焼けませんし、何よりもあまり格好良くない(笑)。しかしジューシーでプリっと仕上がります。BBQやる機会がありましたらお試しあれ。

おまけです。真名鰹の骨の南蛮漬。「もう一杯いただこうかな」とのお言葉に「では、何かお出しします」といった具合で。本当におまけです。

お客様に絶賛していただいた「若鮎ご飯」。作り方はさておき、そのお客様は鮎に色々な思い出がおありで子供の頃から鮎に親しんでこられた方、「夏になると田舎でね・・・」といった話で盛り上がってしまいました。自分も熊本の人吉や滋賀の大津で幼少を過して来たので「鮎」という食材には他の食材よりも多少思い入れが強くなります。「鮎が好き」という奇妙な連帯感?一体感?は何とも心地いいものでした。間もなく天然鮎も解禁です。また鮎談義をしたいものです。

料理の味を決めるのは「食材」「技術」だけではありませんね。思い出だったり、こだわりだったり、色んな物があると思います。その事が再確認できて良かった、そんな一日でした。